大学受験の「英語民間試験」問題について、客観的に分析しました。海外のビジネス社会や MBAを経験してきた目線で、分析します。
「英語民間試験」問題とは?
ざっくり言うと・・・
- 2020年度(2021年1月実施)分より、センター試験を中止
- 6種の英語民間試験の成績を2つ提出するシステムの導入を代わりに検討
- 受験生や家族の間では、93%近くが中止や延期を求める世論結果
- 受験地の少なさや、高額な受験料について、
萩生田光一文科相「身の丈にあった受験をするべき」問題発言 - 2019年11月に、2024年度(2025年1月実施)まで実施見送り
そもそも なぜ導入検討?
センター試験をはじめとした、従来の日本教育は、
- 「読む(リーディング)」
- 「聞く(リスニング)」
が中心でした。そこに
- 「書く(ライティング)」
- 「話す(スピーキング)」
を合わせた4技能も計測しよう、という試みが本件の主旨です。
英語民間試験からの成績提供システムが検討された背景は、グローバル化の発展に日本が追いつくことでした。
確かに、日本の学生は、海外大学の授業を受けていても、おとなしかったり、あまり発言をしないイメージを持たれる人が多かったです。他国の人たちは、文法や言葉が変でも自分の考えをどんどん主張してきます。論文も、日本語ならば中身が濃いのに、英語になると内容が目減りしてしまっているビジネススクール生を見てきました。
大人になってから、急に英語で書いたり話したりすることは、大変難しいのです。
英語民間試験の種類
- GTEC
- 英検2020
- TEAP (PBT/CBT)
- TOEFL iBT
- IELTS
- ケンブリッジ英検
大きく分類すると この6種が選定されました。なお、 TOEIC S&W は 2019年7月に申請を取り下げているため、カウントされません。
「英語民間試験」の不安要素
受験生とそのご家族は、大変強い不安を感じていたようです。しかし、私は今回大きくクローズアップされた「受験地」「受験料」は、英語民間試験問題の根本原因ではない、と考えています。
「受験地」「受験料」は本当に問題なのか?
この図は、各英語試験で問題となった「受験地」の数と「受験料」の比較を概略化しています。消費税10%を適応し、受験地は、基本都道府県数です。(多少の変動は今後あり得ますので、ご了承ください)
地域に関しては、例えば GTECは、47都道府県で受けることができます。また英検2020については最大260会場まで増やすと公式ホームページにうたっています。しかし、IELTSは全国16都市でしか受けることができません。確かに各県庁所在地などから離れて暮らしている受験生は大変ではありますが、多くの試験が設定されており、かつ会場や日程にもバリエーションがあります。試験がどれでもいいのであれば、一番都合が良い場所と日時を第一条件として選べばいいのです。
費用に関しては、最低でも約1万円、と確かに高額です。しかし、GTECの公式ページを見ると、受験生の家庭の所得に応じて、減額制度があるようです。試験がどれでいいのであれば、確かに、事前にしっかり勉強して、GTEC 5,000円程度で受験するしかないのです。5,000円の受験料が払えないとなると、大学入学の費用や生活費の捻出自体は大変難しいです。また、他の科目もあるので実際そんなに繰り返し受けられないはずです。
もっと大きな問題がある
確かに「受験地」と「受験料」は頭痛の種です。しかし、上記の理由により、英語民間試験がセンター試験に成り代わることができないボトルネックではないのです。
根本原因は何か?
定性分析
まず、各英語民間試験の特徴を比較しました。
GTECは、日本の民間会社ベネッセが運営しています。テストは合否判定ではなく、実際に取れた点数で評価(スコア制)されます。
英検2020 1-day S-CBTおよび CBT は、従来のペーパーベース (PBT) の日本英語検定協会の運営です。コンピューターベース (CBT)の実施はまだありません。こちらは準1級以下複数の種別があり、点数ではなく合否のみ判定されます。
TEAP(ティープ)とは、英検の日本英語検定協会と上智大学が実施する点数型英語テストです。PBTとCBTの二種類があり、点数で評価されます。
残り2つは、日本ではなく海外の団体が実施している英語試験です。
TOEFL iBT は、アメリカのNPOが実施する、アメリカ・イギリス・オーストラリア・ニュージーランド・カナダの大学受験でほぼ必須となる英語試験です。内容もアカデミックとジェネラル両方とも非常に高度な内容です。英語力だけでなく、常識や知識が問われる試験です。
IELTS と ケンブリッジ英検 は、両方ともイギリスの英語試験であり、実施団体も関連がありますが、IELTSはスコア制である一方、合否判定のケンブリッジ英検 は8種も種別があります。
以上のように、各試験の特性には一貫性がありません。
定量分析
次に、比較的安価で受験地が多い日系の英語民間試験のスペックをご覧ください。実施年数(回数)は10年以下で、志願者数も非常に少ないです。英検2020 1-day CBT に関しては実施実績もありません。TEAP CBT は、受験生が 1,000名にも至っていないようです。
一方、グローバルの英語民間試験は、実施年数が 40~100年であり、TOEFL iBT の 3,500万名の志願者を筆頭に、多くの志願者の中で点数や合否が判定されることとなります。
結論:各試験制度の一貫性
定性の観点で見ると、国内団体が主催するガラパゴス試験(受験生は日本人ばかり)と、アメリカ・イギリスが主催するグローバルな試験が混在しています。試験種別ももスコア算出する点数制と、Yes or No の合否判定をするもの、さらにいうと、ペーパーとコンピューターベースの試験も混ざり合っています。
定量の観点で見ると、アメリカ・イギリスの団体の英語民間試験は、圧倒的な実施経験と受験者数を誇ります。また冒頭の受験地の数や受験料の問題を加えると、受験地が少なく、費用は、国内のガラパゴス試験の 2倍以上になっています。
まとめ
以上のように、試験の定性的・定量的な質や要件がバラバラになっていることが、根本的な不安要素であると客観的に分析することができます。
人気大学の、最後の一石を争う時、スコア制と合否制どちらの試験が勝つのでしょうか?様々な国の人が受ける TOEFL iBT と、生まれたばかりの TEAP どちらが合格通知をもらうのでしょうか?このような不透明さ・不確実さが 受験生の不安をあおる要因なのです。
考察:試験より小学・中学・高校教育を見直せ
2024年度に向けて再検討をするのであれば、私は、「本来の目的」に戻るべきだと思います。それは、冒頭でご案内した「グローバルな世界で通用する人材を育成すること」です。英語試験だけハードルをあげても実力は伴いません。
水泳で例えるならば、いくらクロール(自由形)で最高の選手でも、練習をしないで、いきなり「明日背泳ぎで金メダル取ってね」と言われたら、それは慌ててしまいます。背泳ぎの練習をしなければなりませんし、時間が必要なのです。
英語に話を戻すと、「書く」「話す」の能力をつける教育を、もっと若い時からする必要があるでしょう。試験実施はそのあとに検討するべきです。
根本的に、「書く」「話す」英語試験を入試に取り入れることは、私は賛成です。なぜなら、日本人が「書く」「話す」能力を伸ばすことは、アメリカで勉強・就業してきた経験から判断しても、伸び代がすごくありますし、また、グローバルなビジネス社会で生き抜くには、必要不可欠かと思います。例えば、フランスでは初等教育から、ディスカッションやディベートの訓練を積んでいます。
グローバルなビジネス社会で勝ち抜くためには、英語で「書く」「話す」の訓練を、初等教育からより実践的に反復することが、理想的です。
参考:各試験の公式ホームページ (2019年 11月 5日時点)
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